千葉歯報  1995年7月号 マイ ホビー掲載
        
「ガラス細工」

 多忙を極めるような時、あるいは何か辛いことがあった時、無性に物事に打ち込む
癖がある。現実逃避症とでも言うのか、私の悪い癖で診療中に技工室にこもる。こも
ると言っても暗く殻にとじこもってしまうのではない。予約のキャンセルがあればも
ちろん、というよりも治療の合間、たとえば、セメントが固まる間とかレントゲンの
現像の時とか、そんなちょっとの時間にふつふつと欲望が沸いてくる。スタッフも心
得たもので「患者さん2人お待ちです。」などと紙に書いて目の前に張り出す。その
趣味というより、悪癖あるいは持病は、古い車のバンパーなどのクローム部品磨きと、
その車の内装木部のニス塗り(レストア)から重症となり、木工細工、そしてガラス
細工と進展していくのである。さらに、これはさすがに患者さんの合間には出来ない
が、大好きなクラリネットの練習(市川では歯科医師ジャズバンドをやっている。)
でレントゲン室にこもる。そして、現在は院長室でパソコンネットワークを治療の合
間やっている。前置きが長くなってしまったが、私の趣味は多種、多忙、多発性なの
である。(まだ、ここに書ききれないくらいたくさんあるのですが) さて、その中
で今回ガラス細工について書いてみたい。読者の皆さんもトライしてみてはいかがで
しょうか?
▼オレンジ色の酸素バ−ナ−の中で溶ける始めるガラス棒,両手に持った棒を回しな
がら端から寄せる. 炎のなかのガラス棒の中心はしだいに膨らみ球になる.重力と
温度調節に神経を集中しながら球を大きくし,よけいなところを炎の中で引っ張り切
る,さらに足したり熱したりしながら形を作っていく.必要なところを炎の中で熱し,
ナイフで切れ目を入れ,あるいはプライヤ−で挟んでつぶす.引っ張り延ばす。この
手順を文字で現すのはちょっと難しい。近頃見なくなったが、お祭りや縁日の飴細工、
それから、テンポラリ−クラウンを作るとき即時重合レジンのポリマ−とモノマ−を
混ぜ粘土状にし、硬化するまでの間,指先で練り、形を作り,挟みで切る.あの時間
と手際の関係によく似ている.
▼ガラス細工に必要な道具はほとんど技工室に揃っている。まず、酸素バーナー、こ
れは焼付けポ−セレン金属鋳造用のものを使用する。私のところは一般鋳造用なので
急遽、患者さん用酸素ボンベ(十数年使用したことが無かった)を引っ張り出しこれ
と接続し、バーナーの先端を細いものに取り替える。机にバーナーをしっかりと固定
し、自分と反対側に炎の先が来るようにする。ナイフ、これは小さめの安物の切出し
ナイフでよい。ピンセット、これは出来上がったものを掴むしっかりしたもの。プラ
イヤー、これだけは特注品で、ニッパーの先に十円硬貨位の大きさの鉄板を溶接した
もの。それから、ちょっと探すのが大変だが、赤外線カットの眼鏡である。(これを
しないと10分位で目が真っ赤になる。)材料はパイレックスの直径5ミリのガラス棒。
▼ディズニーランドのお城の中にガラス細工のお店があるのをご存じだろうか?その
アーティストの何人かが私の診療室に治療に訪れたのが、これを始めるきっかけになっ
たのです。もう、4.5年前になるだろうか、休日のある一日、私は彼らの工場を訪
ね手ほどきを受けた。私の先生、マークは30センチ以上ある大きな帆船を作ってい
る。その隣りに座り小さなミッキー作りに挑戦。1時間以上かかってやっとへたくそ
なミッキーらしき物が出来た。全体のバランス、顔の表情、透明感、なんとも難しかっ
た。診療室に帰るとその復習に精を出す。お昼休みはもちろん、キャンセルがあると
技工室にこもりバーナーの火を抱える。衛生士にスケーリングをまかせ、いや、患者
さんが多少待っていようが、お構い無しでガラス細工に熱中している、そんな毎日で
あった。スタッフも呆れていたが、今思うと患者さんには失礼なことをしたものだ。
(今もしているけど)作品はミッキーマウスに始まり、E.T、ムーミン、恐竜、動物
そして第一大臼歯。このガラスの第一大臼歯についてはイヤリングにして、なんと昨
年の10月、浅草で行われた東京デンタルショーに出品して販売してしまったのだ。
さいわい用意した10組は即日完売してしまった。もし、買われた方がいたら、あれは
私の作品です。
このごろは、ガラス細工はちょっとお休みしている。他にも面白いことがあってそち
らに熱中している。コンピューターでグラフィクスをやったり通信(Nif. ID#
PXU12504 )をしている。楽しいことは、いっぱいあるもんだ。ああ、忙しい。忙しい。